エルメスでは定番のバーキンが50万円以上するにもかかわらず人気が集中し、エルメスのプレミアムブランドバーキンが入手が困難な状況が続いている。これほどの人気を得ているエルメスとは、いったいどのようなブランドなのか?その真髄を探すことにしました。

エルメスバーキンやケリーの作業工程

パンタンの作業所で働く職人はエプロンと白衣を着ている。ipodで音楽を聴きながら仕事をする者もいる。作業所には、時折ハンマーで叩く音やミシンの音が単発的に響くだけで、あとは静かだ。

誰も会話も交わさず、ひたすらバッグをつくっている。

毎日多くの作業をこなしているにもかかわらず、バッグの完成までには長い時間がかかる。平均的なサイズのバーキンやケリーをひとつつくるのに15~16時間がかかる。もっと大きなサイズになれば25~30時間といったところだ。

2005年、フランス国内にあるエルメスの12ヵ所の作業所でつくられたバッグは13万個。ウェイテイングリストのおかげで、同時多発テロの影響で消費が最悪だった2001年にも、エルメスは損失を出すどころか、売上げを伸ばした。

「9.11後、多くのお客様が特別なスカーフやネクタイやバッグを買いにいらっしゃいました」

ニユーヨークにあるエルメス米国支社のCEO、ロバート・シャヴェツは私に言った。

「『何か特別なものが欲しい』とおっしゃってね」

アトリエ内の最初の区画にある作業台にはワニ革が置かれていた。3~4人の男性が疵を調べ、バッグ用に形を整えながら裁断している。エルメスのバツグに使われるすべての素材は、非常に繊細で貴重なクロコダイル、アリゲーターなどの皮革以外は、すべてプレス機で裁断される。

特別注文品をつくる職人たちは、おもに3種類の高価な皮革を扱っている。クロコダイルが2種類、アリゲーターが種類だ。もっともデリケートで高価なものは、オーストラリアに生息するクロコディラス(クロコダイル)。ポロサス種の皮革だ。他の2種類、すなわちクロコディラス・ニコティカスはジンバブエで飼育され、アリゲーター・ミシシツピエンシスはエルメスがフロリダに所有している飼育農場から運ばれてくる。

ポロサスとミシシッピエンシスの区別は、素人ではつけにくい。だがひとつ大きな違いがある。値段だ。2006年、ポロサスのクロコが32センチ使われたケリーバッグの小売価格は11万9600ドル、ミシシッピエンシスは1万6700ドルだった。 f:id:una-kowa:20170305132407j:plain

平均サイズのバッグにはワニ3匹分の皮革を必要とする。人の指紋と同じように、クロコダイルもアリゲーターも柄は1匹ずつ違うため、組み合わせを探すのに時間がかかる。どの爬虫類でも柔らかい脇から下の部分を使い、傷のついた凹凸のある背中部分が使用されることはない。腹の部分はバッグの側面やフラップに、うろこが大きい尻尾の下の部分は底部、側面部、マチの部分にそれぞれ使われる。

皮革には艶出しのエスは塗らない。ニスを塗ったような光沢を出すために、職人は璃璃で磨きをかける。だからバツグは防水ではない。ちなみに小型スーツケースほどの大型のバーキンには、クロコダイルが使われることはめったにないという。

「クロコダイルは大人しい性質の動物ではありません。だから、身体が大きくて噛み痕のないクロコダイルはまず見つからないんです。大型バーキンに使えるほどの皮革が出るまでには10年間待たないといけないでしょうね」

と、職人の1人が説明してくれた。

私が訪れたとき、1人の職人がルビーレツドのクロコを、もう1人がパイングリーンを扱っていた。2人は弾力性のあるゴムのマットの上に立ち、1日中立ちっぱなしだそうだ。まだ動物の形状をしているその皮革を白い大きな作業台の上に広げた。天丼の明かり取りから射しこむ光のもとで、皮革を丁寧に調べ、疵があるところを白いマーカーで丸く囲む。

疵や汚れがある部分はすべて取り除かなくてはならない。牛革に残っている疵ならば染めれば見えなくなる。だが、「クロコダイルと淡い明るい色で染めた皮革では、どんな疵も日立ってしまう」のだという。その職人が調べていた皮革にはたくさんのマークが入っていた。「たぶんこれはマチ部分に使用することになるだろう」と彼は言った。

皮革職人がバッグに合わせて裁断したレザーは、ジツパー、鍵、金具、裏地、パイビング用の皮革の紐など、バッグをつくるのに必要な部品とひとまとめにしてプラスチックのトレイに入れられ、組み立て工程を担当する職人に渡される。組み立て職人は、一度に3個から4個のバッグを同時進行でつくっていく。

同モデル、同サイズ、同じ素材のものだ。ある職人は、黒のクロコで、留め金にダイアモンドがはまっている小型のケリーをつくつていた。ダイアモンドの地金素材はホワイトゴールドに限定され、品質保証されたゴールドとダイアを使用する。2004年、ホノルルのエルメス店からの特別注文でつくられた、ダイアモンドがあしらわれたルビーレツドのバーキンは9万ドルで売られた。

大半のモデルは裏返しにしたまま組み立てられる。まずは先端の鋭くとがった、アフロヘア用の櫛に似た手づくりの金具「グリッフ」を使う。いろいろなサイズがあるグリッフを、レザーの切断面に軽く押しあて、きっちり等間隔に印をつけ、手縫いするときの縫い目の目印にする。ジッパーと内側のポケット部分だけがミシンで縫われるが、あとは全部手縫いだ。

外側の革と、内側の裏地となる革の間に固い牛革を挟み、バッグの強度と堅さを強化する。ジッパー以外のすべての材料はレザーだ(もちろんラフイアやキャンバス地が使用されるバッグ以外だが)。見えないところにプラスチックの補強材を入れたり、裏地をキャンバスや合成素材にすることはありえない。

ケリーバッグには2つのタイプがある。縫い目が外側に出ているセリエールと、ルトウールネと呼ばれる内側に折り込まれたタイプだ。バーキンはルトウールネだけだ。

ルトウールネの端はバッグと同じ色の素材でパイピングされる。パイピングはレザーを細く紐状に切ったものを、革の端を包みこむようにして、ほんのわずかの接着剤をつけて留められる。すべて縫い合わせると、8層のレザーとなる。外側の皮革、補強のための牛革、それぞれの裏地としての皮革が2層、そして端を留めるパイビングの革が表と裏に2層ずつとなる。

ケリーは、バッグの背の部分からつながったフラップがついているが、バーキンのフラップは本体に縫いつけられる。ハンマーで叩いて平らにし、端を削ぎ、やすりとワックスで磨きあげる。持ち手部分は6ピースのレザーで形づくられ、職人がひとつひとつ成型する。1本の持ち手をつくるのに3時間半ほどかかる。

「持ち手の仕上がりが、バッグの完成度を決めます」と案内してくれた職人がいう。

表裏両面が完成すると、職人はひとつにまとめて金具をつける。現在、ほとんどのバッグの金具はネジで留められているが、ネジはしだいに弛むために、エルメスではパーリングと呼ばれる特殊な方法で金具をつけている。レザーの表側に留め金を、裏側に金属製のバッキングを置いてレザーを挟み、クギを裏側から表側へ通した後、クギの先端を削りとって留め金の金具と同じ平面にするという手法だ。

先端が凹形をしている特殊な道具を使い、まるい小さな真珠のようになるまでクギの先端をそっと叩く。留め具の部分は傷がつかないように透明なプラスチックでカバーされ、そこで表に返して、アイロンをかけて形を整える。デリケートなクロコはうろこ1枚1枚の形を崩さないようにアイロンがかけられる。

職人は細長い小さなアイロンを縫い日と縫い目の間に通して、汚れを除きながら、端の形をまっすぐに整える。作業が終了すると、検査員が縫い日のバランス、パーリングの仕上がり、鍵の具合、形、表面の疵などすべてを調べる。検査員のOKが出たら、職人の名前、製造年、製造場所を示すスタンプが押される(ケリーの場合はレザーのバックルにスタンプが押されている)。

完成したバッグはエルメスのシンボルカラーであるオレンジ色のフェルトの袋に入れられ、ボビニー市から15分のところにある配送部に送られて再び検査を受ける。

合格した製品は薄紙でラツピングされ、箱に入れられて店に配送されるのである。なお、「検査に合格しなかったバッグ」がどうなるのか はは、エルメスは私に決して言おうとしなかった。f:id:una-kowa:20170305131508j:plain