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エルメスでは定番のバーキンが50万円以上するにもかかわらず人気が集中し、エルメスのプレミアムブランドバーキンが入手が困難な状況が続いている。これほどの人気を得ているエルメスとは、いったいどのようなブランドなのか?その真髄を探すことにしました。

バーキン売買の実力者がバーキンを人質に盗られる

f:id:una-kowa:20161129191758j:plain アテネでブロードウェイ級の演技を披露したあと、「正常」な日々が戻ってきた。ここで言う正常とは、、あくまでもぼくにとっての意味で、どこかの母親が考える「正常」からはほど遠い(ただし、ぼくのママはぼくの「正常」に順応している)のだが。

ぼくは、声色遣いのうまい役者、オンライン競売人、為替レートの専門家、バーキン売買の実力者になり、二冊のパスポートを駆使して世界を飛び回っていた。足りないのは〈ガルフストリームV〉だけだけれど、いったい誰にあのジェットビジネス機の燃料代が払えるのだろう?

すでに一ダースのバーキンを買うことは、一ダースの卵を買うようなものだった。銀行がどう考えていたのかは知らないが、買ったり売ったり、代行人に資金を振り込んだりするたびに、銀行口座に週単位で莫大な金額が出はいりしていた。ラップトップが二台、携帯電話が二台、〈ブラックベリ!〉が一台。

旅に出ていないときのぼくは、ホアンが朝八時に家を出たときも夕方四時に帰って来たときも、まったく同じ場所に座ってこれらの情報機器に固まれていた。だけど不満はなかった--バーキンはいつもかなりの利益をもたらした。両親は出荷センターを運営し、バッグの約半分をサラに、残りの半分をほかのクライアントに発送した。買い物代行人が買い、ぼくが買い、ホアンも買った。九割がたがクロコだった。

そしてありがたいことに猫がいた--ともかくも一日じゅうひとりではなかった。ダリはラップトップの横で丸くなり、空っぽのエルメスの箱によじ登って出はいりし、仔猫らしい仕草で愛矯を振りまいて、おおいに必要な気晴らしを与えてくれた。

バーキン買い物代行人

フランスで出会ったリュックが相変わらずいちばんの買い物代行人だった。さいわい、彼とはあまり会わずに済んだ。あれほど利己的な人間は見たことがなく、まれにパリで顔を合わせるときも、ぼくがすべての勘定を払った。だけど一年かそこらの問、時計のように規則正しくバッグを送ってきたから、仕事上の関係に不満はなかった。だがあるとき、ちょっとした問題が起き、小学生レベルのお粗末な英語のメールが届いた。

■送信者:「リュック」 ■受信者:「マイケル」

--やあ、大もんだい。ぎんこうから電話で君の送金のこといろいろきかれた。なんのお金か書いた手紙をぎんこうに送んなくちゃなんない。

今回ぼくの〈アメツクス〉のカードをつくるべきだスウィーティぎんこうが今後ますますもんだいになる おやすみ。きっとあしたはかいけつして。キス

あんなバカの自己陶酔男にぼくの〈アメックス〉を持たせると考えただけで、溶岩さえ凍りつくに違いない。

■送信者:「マイケル」 ■受信者:「リュック」

--リュック パリのエルメスに電話して、トラペラーズチェックで支払いができるか聞いてくれる?それで大丈夫なら、〈アメックス〉のトラベラーズチェックを送るから、君は銀行と関わらなくて済むよ。〈フエデツクス〉なら一日で届く。電話の結果を教えて・・・mt

カネが絡むとなるとリュックは行動が早い。

■送信者:「リュック」 ■受信者:「マイケル」

--ゃあ、スウィーティ 完ぺきだ。エルメスに電話したらチェックはだいじよーだった--君はてんしゃいだね!!! 明日バッグが買えるから今日チェックを送ってくれる?ほかにもいい知らせカネ持ちの男とアメリカでデートする。いますぐ電話して。キス

真っ先に思い浮かんだのは、リュックが、その哀れなお相手から絞れるだけ絞り取るのだろう、ということだった。16歳の娘じゃあるまいし、新しいゲイの恋人についてぺちゃくちゃしゃべるのを聞かされたくもなかったから、すぐに〈アメックス〉のトラベラlズチェックを買って〈フエデックス〉で送った。

この方法はうまくいき、その後の数ヶ月は、二週間かそこらに一度の割合でバッグが届いた。あえて聞いたことはないが、彼がすべてのバッグをフォブールの本店で購入している可能性は低いとにらんでいる。あちこちの店でみずからの能力を披露していたのだろう。せっせと授粉に飛び回る忙しいバーキン働き蜂。だけど率直に言って、バッグが送られてくるかぎり、ピアリッツからベルリンまで彼がどこでフェラチオをしようが知ったことじゃない。

ある日、また南フランスのエルメスをめぐる旅に出かけ、ドライブ中にノラ・ジョーンズが歌いはじめたとき、リュックの携帯電話からメールが届いた。

スウイーテイいまNYCだボーイフレンドのスタンがバッグ買うために〈ビザ〉のプラチナカードをつくってくれた君はペンシルベニアの彼の口座にそーきんできる。すごいニュースだろ。NYCでもバーキン買ったほうがいい?

すぐに返事を送った。

〈ピザ〉はいいニュースだ、君にはずいぶん都合がよくなる。いや、NYCでバーキンを買う必要はないよ。高すぎるから!

失意のリュックから返事が届いた。

来週バンコクに行くからバッグが買えるか試してみる。スタンは行かない彼の〈ピザ〉だけだよ力ネ持ちのパパとファックしろよでも君には彼らとは楽しめないけどね

バンコクー- Bangkok、バンクOK--よりにもよってうまい名前のバンコクに?まあ、気の毒なスタン。彼は「ナンタケット島のそりH」に乗せられてるわけだ。ナンタケットはかつて捕鯨で栄えた島だ。捕鯨船に乗ってクジラに錯を撃ち込むと、船は暴れるクジラに引きずられ、すさまじい勢いで揺さぶられ、クジラがついに力果てるか船が沈むまで振り回される。リュックが「バンコクでパンクOKした」あと、スタンの手元にとんでもない〈ビザ〉の請求書が舞い込むことは間違いない。あとでわかったことだが、スタンの〈ピザ〉カlドに「リュック、タイを満喫する」の製作費を捻出するだけの経済力はなかった。リュックから半狂乱の電話がかかってきて、ぼく(「そり」に乗せられたもうひとりの犠牲者)は300ドルを振り込まされた。

だけどスタンと違ってぼくが追いかけてるのはバーキンであって、リュックの尻ではない。リュックがパリまで無事に戻り(日程はシャルル・ド・ゴール空港、バンコク、シャルル・ド・ゴール空港、エイズの無料検査所、アバルトマンだろう)、メールが届いた。

■送信者:「リュック」 ■受信者:「マイケル」

--スウィ!ティ パリに戻った。ソニアと話したら今週はバツグが二個、フィリップはもうすぐブルー口ワのク口コがはいると言う(フイリップはボクがほーんとにいい男だと思ってるし、いまもボクにぞっこーんなのは知ってるだろ)。あーあと二週間でポクのたんじよ日だ、エルメスのビーチタオル欲しいなあ。キス

そりゃ欲しいに決まってるだろう。あのタオルは水もカネもよく吸い込むと見えて500ドルもするんだから。ぼくは皮肉を言いたい気持ちを(たまには)抑えた。

数週間後、まだパジャマのまま、朝いちばんのアールグレイをいれていると、リュックが興奮しきった声で電話をかけてきた。例によって電話代をケチり、かけ直してくれと言う。

ブルーロワ事件の始まり

「スウィーティ、スゴいニュースだ。ブルーロワが手にはいる!ほらね、スウィーティ、フィリップはぼくにぞっこーんなんだ。言っただろう--彼からなーんだって買えるって」得意気な声だ。彼と知り合って一年半かそこらになるが、その問、何度同じ言葉を聞かされたことやら。

自慢話をほとんど聞き流し、大事なポイントを聞き忘れないようにした。「そのバッグはいくらなの?」「ええと、読むよ、2万2000ドルって書いてある。スタンの口座にすぐ振り込んでくれたら明日〈ピザ〉で買える。スウィーティ、そのバッグでいくら儲かりそう?」ぼくはうんざりした。

どんな数字を言おうと、彼はその金額を守らせようとするだろう(彼は次第に「上がり」 の分け前について貧欲になっていた--ぼくのお金で一個買うごとに利益の半分を手数料として要求した)。だけど電話を終わらせたくて、これまでの経験を踏まえて言った。

「そうだな、うーん、だいたい5000ドルってとこかな」ぼくは以前、ふたりのクライアントにブルーロワのクロコを頼まれたことがあり、そのとき、たっぷり謝礼をはずんでも構わないと言われたのだ。だけどそれは数ヶ月も前の話だ。すでに彼女たちは、夜ごとブルーロワのクロコのプールを裸で泳ぎ、エルメス氏と3pを楽しんでいるのかもしれない。

「スウィーティ。5000ドルは絶対守って」そう言ったとたん、ぼくはあやまちに気づいた。やつは、自分の尻にタトゥーで彫り込んででもいまの数字を忘れないだろう。マズい。なんてことしたんだ?被害をこれ以上広げまいとしてそそくさと電話を切り、すぐに行動に移った--|数人のクライアントにメールを送る。30センチ、クロコダイル・ポロサス素材、ブルーロワ(ロイヤルブルー)、金具はパラジウム(シルバー)。ブルーロワは人気だから、売りさばくのに問題はないだろう。

翌朝、目が覚めるとメールが届いていた。

■送信者:「リュック」 ■受信者:「マイケル」

--スウィーティ ブルー口ワを買った。今回だけとっても大きなおねがいあるスウイーテイ5000ドルの儲けをぜんぷもらっていい? 手術を受けなくちゃいけない5000ドル以上必要だからこの一回だけぼくたちが儲けるカネをぜlんぷもらっていいかなおねがーい? わかったら、できるだけ早く返事して。ああそれとも5000ドル以上儲かればほーんとうれしー。ビッグキス

信じられない図々しさだ。状況を整理させてもらおう。リュックがぼくのお金でバッグを買う+ぼくがぼくのクライアントにバッグを売る=リュックが利益の全額を手に入れる?ぼくの専攻は数学じゃないけれど、この等式はまるで納得が行かない。いったいぼくはなにに見える、サンタクロースとでも?

リュックが自力でバッグを売り買いできるのなら、当然、ぼくとは組んでないはずだ。肝心なのは、おたがいがおたがいを必要としていることだ。それなのに、彼はぼくをぼくのビジネスから外そうとしている?はあ?しかもそのうえ、ぼくはその男が好きでもない。彼とやりとりするたびにうんざりする。彼をほかの仲間と同じように使いこなせると考えるのはバカだけだ。

そんなわけで、ぼくは言いたいことを抑え、これを最後と決めた。今回で彼との関係は終わり。リュックがいかに「無邪気」に見えても、その本性は人を操るのが巧いし貧欲だ。どれだけ多くのクロコが届いても、我慢するだけの価値はない。今回は餞別としてぼくが器の大きな人聞になろう。それなら後ろめたさもなく、ばっさり関係が断てる。

■送信者:「マイケル」 ■受信者:「リュック」

--リュック、手術が深刻なものでないことを祈る。もちろん、バッグの利益は全額(今回だけ)受け取って構わない。だけど忘れないでほしいが、バッグはまだ売れてないし、利益が絶対に5000ドルだとは保証できない。できるだけ高く売る。うまくいけば今日じゅうにメールが来るかもしれないから、できるだけ早く連絡する。mt

追伸昨日、スタンの口座にブルー口ワの代金二万二000ドルを振り込んだ。

これでしばらく黙らせておけるし、時間も稼げると思ったが、それほど甘くなかった。

■送信者:「リュック」 ■受信者:「マイケル」

--スウィーテイ 5000ドルって約しよくしただろ。なんで今ごろになって話ちがう? ぼくが5000ドルぜんぶもらう番になったらそれを変えるなんておかしー。スタンも君が5000ドル約しよくしたと言ってるからいまになってそれを変えないでくれ。わかったら、すぐに返事して。キス

状況はどんどん悪化するばかりだ。あの間抜けなロバに金額を言ったかと思うとぞっとする。急いでほかのメールに目を通したところ、なんてことだろう。サラは、バッグは欲しいが3000ドルしか上乗せできないと言う。となるとぼくが2000ドルの自腹を切らないかぎり、あのフランスのへンリー・キッシンジャーを黙らせることは不可能だ。

別のクライアントは、ブルーロワを持ちかけられたのはぼくが三人目で、ありがたいけれど今回は結構です、と返事してきた。

すばらしい--エルメスが市場を氾濫させ、ぼくは反抗的で怒りに燃えたゲイの一等航海士と、沈みゆく船に取り残されたってわけだ。

ポットで紅茶をいれてから( 一瞬、精神安定剤も探そうかと思った)リュックに電話をかけて状況を説明した。クライアントから届いた二通のメールについてもできるだけ詳しく話した。

いかなる反応にも十分備えたつもりだったが、このとき、不屈の交渉人は全力で抵抗した。「ダメだダメだダメだ。最初に5000ドルって言ったのに、いまになってぼくを踊そうとしている」リュックが甲高い声をあげた。

「だけど、ぼくが需要と供給をコントロールしているわけじゃない--」ヒステリー発作の合聞に言葉を挟もうとしたが、「おばあちゃん」をしかり飛ばす「田舎のおばちゃん」のように、リュックが大声でぼくをさえぎった。

「いいや、君は5000ドルって言ったし、スタンも同じ意見だ。ぜんぶ彼に話した。バッグを返してほしけりゃ、ぼくの5000ドルを持ってパリまで取りに来い」そう言い放つと、電話をがちゃんと切った。ぼくは激しいショックを受け、精神安定剤を探した。そしてワインも。まったく、まだ五時かそこらだというのに:::。

しばらくすると本当の衝撃が襲った。バッグが誘拐された。可哀相なブルーロワ。留め金にダクトテープを巻かれ、ダストカバーで目隠しされて、どこかの部屋の片隅にうずくまっているに違いない。

いいだろう、ワインなんか飲んでいられない。行動を起こすときだ。

■送信者:「マイケル」 ■受信者:「リュック」

--リュック、ぼくはさっきの電話に困惑しているし、残念な気持ちだ。君は忘れているらしいが、ぼくは君に1500ドルを貸しているし、いつも頼まれれば言われるままにカネを振り込んできた。常にぽくが食事代を払い、電話をかけ直し、口座の振り込み料も〈フヱデックス〉代も負担し、いままで文句ひとつ言わず、貸したカネを返してくれと要求したこともない。

わかってもらわないと困るが、誰かが今日、バッグに多額のお金を払うとぼく(あるいは君)に言ったからといって、一ヶ月後、ひょっとしたら明日でもその言葉がまだ有効とはかぎらない。それは需要と供給の法則と呼ばれる、ビジネスの重要なポイントだ。

君の話では恋人のスタンは高い知性を持つ一流のビジネスマンらしいから、このメールを転送して彼の意見を聞いてみたらどうだろう。ぼくはずっと物惜しみせず、いつも君に率直な態度を取ってきた。それなのに、いま、こんな自に遭わされているとは信じられない。どうかこのメールを二度読んで、深呼吸をして、よく考えたうえで返事をくれないか。 よろしく

驚くこともないが、リュックはよく考えなかった。

■送信者:「リュック」 ■受信者:「マイケル」

--いいや、ぼくのカネ、5000ドルを寄越さないなら、バッグはぜったい渡さない。話はおわり。リ ユツク

最後に「キス」がないことに苦々しい思いで気がついた。