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エルメスでは定番のバーキンが50万円以上するにもかかわらず人気が集中し、エルメスのプレミアムブランドバーキンが入手が困難な状況が続いている。これほどの人気を得ているエルメスとは、いったいどのようなブランドなのか?その真髄を探すことにしました。

ウェイティングリストのバーキンを購入する神の方法

旅は楽勝だ。まずはモンペリエ。ホップ・ステップ・ジャンプでアヴィニョン。そこからマルセイユまではほんの目と鼻の先。

ちょっとドライブしてエクサンプロヴアンス。カンヌまではさほど遠くないし、さらにサントロペまでもう少し。すぐ前の国境を越えればモンテカルロ(厳密に言えばモナコ公国だが、誰もそんなことは知らない)。

『エルメスの世界』を片手に計画を練った

そしてミラノへ(前からイタリア料理は大好きなんだ)。〈マップクエスト〉のオンライン地図を印刷し、ばんばんに膨らんだジャンボサイズのスーツケースの脇に置く。出発は明日の朝。

夜中に目が覚めたとき、自分がどこにいるのかわからなかった。フランスの国境を越えるために、ウェイティングリストで二年待ちと告げられる夢を見ていた。

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出典:エルメス本店エルメス フォーブル・サントノーレ店

最初の目的地はモンペリエ

ようやく20歳にしか見えない店員の女性は親切だったが、ぼくがバーキンと言ったとたん、あわてて逃げ出した。

店長と思しき若い男性を連れてきて、彼が申し訳なさそうに残念にケリーバッグを勧めた。ケリーバッグがなんなのかわからなかったが、パーキンでないことは確かだ。

ウイツシュリストを渡してスカーフを買った。せっかく来たんだからなにか買わなきゃ。つぎはエクサンプロヴアンス。ピーターメイルの「南仏プロヴアンスもの」は読んでいたけれど、これほど絵のように美しい町だとは思わなかった。

主人公がセザンヌの絵の中に閉じ込められる『トワイライトゾーン』みたい・・:そして自分がその主人公になった気分。店は小さかっ

た。更衣室かと思うくらい。店内を見渡すのに必要な17秒の聞にバーキンは見当たらず、ぼくの心は沈んだ。

パットマンが住むような地下のパーキン秘密基地に隠されているに違いない

そして思った通り。残念ですが、バーキンはございませんと。ぼくはあきらめのため息をついて、ウィッシュリストを手渡した。スカーフ、シル・ヴ・プレ。そしてアヴィニョン。

城壁に囲まれた古代の町では、パーキンもがっちり防御されていた(スカーフ、スカーフ、またもスカーフ・・・もうスカーフはうんざり)。

落ち込んだけれど困難に負けじと、パリに次ぐ第二の都会マルセイユヘ向かった。巨大な港湾都市には毎日、大量の船荷が到着する。

そのいくつかはバーキンに違いない

ぼくはエルメスに意気揚々と乗り込んだ。そして二度目の重大事件が起きた。

はじめて腹を立てて店を出たのだ。最初、親切そうな年かさの女性に声をかけた。だがバーキンと言ったとたん、別の女性が近づいてきた(正確に言うと猛然と突進してきた)。彼女はあまり親切そうに見えなかった。

それどころかぼくの脳裏に、ホテル女王乙と故レオナ・ヘルムズリ!の顔が浮かんだ。莫大な遺産のうち、ふたりの孫にはビタ一文遺さず、愛犬マルチーズのトラブルなど、12OO万ドルもの大金を遺した別名ケチの女王だ。

最初の店員はたちまち退散した(まさか、彼女はおとりだったの?)

そして、パーキン王国の守護者を自負していると思しき新しい女性に同じ質問を繰り返すと、彼女の表情がひどく疑り深く悪意に満ち、ぼくはうっかりバーキンじゃなくて〈フェンディ〉のパゲットと言ってしまったのか、とあわてた。

「お客さま、予約は終了しました」彼女はありったけの憎しみをこの短い返事に押し込めた。納得がいかないのは、なぜ彼女がそこまでぼくを嫌うのかということだった。

だって、ぼくはエルメスのお店にいるわけでしょ?

どうのこうの言っても、バーキンを売ってることに間違いないんでしょ?(いいえ、待って・・・パーキンは不死鳥かユニコーンみたいなもので聞いたことはあるが見た者はいないとか)。

想像上のバッグだろうがなんだろうが

エルメスの店でエルメスのバッグをたずねてこんな扱いを受けるいわれはない。何日もフランスの田舎をまわったあげく、店で支給されたスカーフを巻いたあか抜けない店員に横柄な態度を取られるために、わざわざマルセイユまで来たわけじゃない。

「終了したってどういう意味?順番を待つためのリストでしょ。それでぼくは待てないの?あなたは待てません、そうおっしゃりたいの?ここはレストランじゃない、客に料理のオーダーストップをするのとはわけが違う。ここはエルメスのお店じゃないの?パーキンって名前のバッグをつくってるんでしょ?あら、ちょっと待って。わかった。つくってるけど売ってない・・・それなら完壁に納得がいく。ねえ、こうしたらどう、予約を受けつける係をつくったら。あら、いけない、予約の受付はもう終了したんだった」

ぼくはまるまる一ヶ月にわたる虚しい苛立ちを、この不愉快な店員にぶつけた。後悔はなかった。とりわけ、ほかの店員がいまにもぼくたちを囲んで、拍手しそうな雰囲気だったのだから。

「お客さま、怒鳴るのをおやめいただけない場合は、出て行かれることをお願いすることになりますよ」つんと取り澄ました、勝ち誇った声だった。彼女の最大の楽しみは、客を追い出すことに違いない。

「第一に、ぼくは怒鳴ってないし、そんな嫌みを言われる筋合いはない。第二に、ぼくがあの店員さんと楽しくお話ししているところへ、あなたがノルマンディ上陸みたいにやって来て、彼女を蹴散らした。ちょっと失礼、あの女性にスカーフを見せていただいてもいいかな?それともまさかスカーフもない、とでも?」

皮肉たっぷりに言った。だがスカーフと聞くと、彼女はきびすを返して憤然と立ち去った。最初の女性はどうしたかって?まあ、彼女もパーキンは売ってくれなかったけれど、その日の午後、ぼくを英雄みたいに扱ってくれた。

10日後、ミラノではもうそんな苛立ちは味わっていなかった

いいや、バーキンは手にはいらなかった。サントロペでもカンヌでもモンテカルロでも。でも、創業三OO年を誇る老舗レストランで、アマロネワインをぼんやりと飲み、トリュフを散らしたフェトチネを口に運ぶうちに、気分が落ち着いてきた。

正直なところ、南フランスの旅は、目当てのバッグが買えなかったにしろ、苦痛ではなかった。明日、近くの店で最後の努力をしてみるが、もう大きな望みは持っていない。

旅を大成功とみなすには、そもそもバカンス75%、ビジネス25%と考えればよかったのだ。パーキンが本来の生息地のフランスで決定的に不足しているせいだ。

誰か、絶滅危慎種リストに載せて。しかも一刻も早く。いまに捕獲して繁殖させなければならなくなる前に。一方で明るい面を見れば、スカーフ種は繁栄していた。

彼らは競り合いの好きな愛らしい種族だ(少なくとも、ぼくの休暇を喜んでくれるに違いない。トランクはスカーフではち切れんばかり)。だけどどれほど満足したにしろ、ぼくの中に失敗を忘れられない自分がいた。

このままずっと、パーキンが手にはいらないのだろうか?パンナコッタを味わいながら、そんなこったは嫌なこったと思った。

次に起きた出来事が、ぼくに8歳のときのクリスマスのことを思い出させた。

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出典:ブランドオフ【公式】

当時、ぼくはサンタクロースがほんとに赤い服を着たおじいさんなのか、疑いはじめていた(だって、あんなにたくさんのプレゼント、絶対そりに乗んないよ)。

両親は思い切った行動に出た。クリスマスイブの夜、パパは気乗りしないママを説得し、ひとりで屋根にのぼって物音を立て、八歳の息子に聖ニコラスはやっぱりいるんだと納得させたのだ。

ミラノの夜、ぼくの胸にそのときの感情

イブの晩、トナカイが忙しげに屋根を歩きまわる音をベッドの中で聞いたのとまったく同じ気持ちがよみがえった。レストランで、パーキンはどこからともなくテーブルの脇を通った。

優雅な女性の腕にぶらさがって、ぼくの前に現れた(パーキンとわかったのは、写真で見たことがあったからだ)。ぼくはすぐにパーキンの存在を信じた。ところでいったいこの女性は誰だろう?

ぼくの知らない秘密を知っているのだろうか?本当に2年も待ったのだろうか?これらの疑問から。

バーキンを手に入れるとても簡単な方法が思い浮かんだ。

いままで考えつかなかったのが不思議なくらいだ。そうだ、サンタクロースにお願いしよう。サンタならウェイティングリストなんて面倒なことは言わないはずだ。